「5G」という言葉が近年広くメディアで取り上げられるようになりました。「5 GHz」との違いは?4Gとの違いは?、など解説します。5Gの技術について学び始めようとしている方にお薦めです。
5Gと5 GHzの違い
5G(ファイブジー)は通信規格の第5世代移動通信システムを表しており、以前の世代は1G、2G、3G、4Gと呼ばれています。
一方、wifiで出てくる5 GHzは電波の周波数を意味します。一般に電波も光も電磁波(電場成分と磁場成分を持った波)で、ある時刻において電磁波を切り取ると下図のように電場成分、磁場成分がそれぞれ波のように振動しています。
5 GHzの周波数は、あなたの元に1秒間あたり波が5×109(50億)個届くことを意味します(ギガ(G)は109を、Hzは1秒あたりを示す単位)。億と聞くととても大きなイメージを持たれるかもしれませんが、この世界には私たちの日常ではほぼ用いられない巨大な数字が普通に出てきます。例えば物質を細かく分解していくと原子という最小単位になります。水18gの中には原子が6.0×1023(6000垓:科学の世界ではアボガドロ数と呼ばれます。)個も含まれています。
5G以前の通信
1G
遠くの人と会話できる固定電話は1876年アレクサンダー・グラハム・ベルによって実用化され、翌年に日本にやってきました。
固定電話を無線化し、移動しながら使えるようになったのは1979年(自動車電話サービス)です。これが第1世代(1G)の始まりです。私たちが持っている携帯電話とは異なり、大きくて重かったので当初は車に備え付けられていました。
1Gの特徴は固定電話の場合と同様にアナログ信号を用いている点です。アナログ信号は糸電話をイメージしていただくと分かりやすいです。糸の振動として声が伝わるのと同様に、電話回線の場合だと声が銅線の中を電気信号として伝わります(光回線だと光ファイバーの中を光信号が伝わります)。伝わる信号は、下図の赤実線のような波形の信号が無数に重ね合わさっています。
2G
第2世代(2G)からは無線伝送の仕組みがデジタル化しました。糸電話で長い距離声を伝えるのが難しいように、声の信号は伝送距離が長くなるほど小さくなるとともに外部からの雑音の影響も加わります。アナログ信号をデジタル化することで信号の情報を失われにくくできます。例えばもともとの信号の大きさを1刻みで認識する場合(ex.0.50~1.49は1、4.50~5.49は5とみなす)、大きさ1の信号が伝送によって0.9や1.2といった値に変化しても元の信号(大きさ1)の情報は失われません。デジタル化によってデータ通信が容易となり、携帯電話のSMSやメールサービスが拡大しました。
3G
第3世代(3G)においては携帯電話の通信プロトコルが世界標準化されました。これによって、地域やメーカーの違いによって互いに通信できない問題がほぼ解決されました(実際には完全な統一まだは至りませんでした)。
3Gの技術的特徴としては、携帯の端末ごとに符号を割り当てることで多くの端末が同時に通信可能になったことが挙げられます。以下に1Gから3Gまでのそれぞれにおける多元接続方式を示します。
同じ周波数の電波が重ね合わされると互いに干渉して波形が乱れ、データの復元のための処理時間によって通信速度が落ちてしまいます。電波どうしの周波数が異なる場合にはそれぞれの電波を簡単に分離できるため、1Gにおいては通信によって異なる周波数を割り当てる周波数分割多元接続(FDMA: Frequency-Division Multiple Access)が用いられました。技術的ハードルが低い一方で、利用者ごとの帯域が干渉しないように帯域間に使用できない周波数領域が生じてしまいます。
電子機器ごとの周波数割り当ての例を以下に示します。
2Gでは時間的に割り当てを切り替える時分割多元接続方式(TDMA : Time-Division Multiple Access) が用いられました。利用者間に時間的に隙間を空ける必要がありますが、FDMAよりは電波の利用効率が向上します。
3Gでは送り出すデータごとに異なる符号(コード)を掛け合わせることで、複数の利用者が同じ周波数・時間で信号をやり取りできるようにした符号分割多元接続(CDMA: Code-Division Multiple Access) が用いられました。 符号を知らないと元の信号を取り出せないことでセキュリティが向上するだけでなく、電波の利用効率も大きく向上しました。
私は中学生の頃にドコモのFOMAという3G携帯を用いていました。折り畳み式、電話ボタンあり、アプリはスマホのように自由に入れられない、、など今となっては懐かしいですね。2000年以降に生まれた方は分からないと思いますが、外出中にメールなどのやり取りができる・インターネットに接続できるなど、当時の自分はすごく驚きました。
4G
3Gから4Gへ移行する時期は携帯電話からスマホへの移行時期でもありました。スマホではパソコンと同様に動画や音楽などの容量の大きなデータを扱われるようになり、3Gでもまだ高速性・大容量性が足りませんでした。そのために必要な技術は、3Gで通信プロトコル世界標準化を推し進めた国際電気通信連合(ITU: International Telecommunication Union)が 再び「IMT-Advanced」規格としてまとめました。主な要件としては1 Gbpsという通信速度があります。1 Gbpsは1秒あたり1Gビットのデータが転送されることを意味します。(1バイト=8ビットなので1GB(ギガバイト)のデータを転送するのに1Gbpsだと8秒かかります。)
3Gを改良する形で4G実現が目指され、3.5Gや3.9G(LTE: Long Term Evolution)を経たのちにLTE-Advancedが4Gの基準をクリアしました。最終的には3.5GやLTEも含めて4Gと呼ばれるようになりました。
以下では4Gを支える3つの技術であるMIMO、OFDMA、QAMについて紹介します。
MIMO
MIMO(Multi-Input and Multi-Output)では、複数のアンテナでデータを並列に送信することで伝送容量を拡大します。同じ周波数の電波どうしが重なり合いますが、行列演算処理によってそれぞれの信号を復元します。(詳細は割愛させていただきます。信号が通れるルートが増えたんだな、くらいに理解してください。)
直交周波数分割多元接続(OFDMA)
OFDMA(Orthogonal FDMA)は、1Gで用いられていたFDMAを発展させた技術になります。FDMA方式では自社に割り当てられた周波数帯域をさらにサブキャリアに分割し、サブキャリア1つで1利用者の通信を行います。干渉を防ぐためサブキャリア間には使用できない周波数領域(ガードバンド)があり、電波の利用効率が低かったです。OFDMA(4G)の場合には、あるサブキャリアの中心周波数において他のサブキャリアの信号が0になるような信号を用いることでガードバンドをなくし、電波を効率よく利用することができます。さらに、時間ごとに各利用者に対して最適なサブキャリアを割り当てる工夫もされています。
基地局→端末への通信を下り、逆を上りと言いますが、LTEでは需要が多い下りにおいてOFDMA方式を用いています。
直角位相振幅変調(QAM)
コンピュータで使われる0と1の区別の方法としては、例えば以下に示したように振幅(ASK: Amplitude Shift Keying)、周波数(FSK: Frequency Shift Keying)、位相(PSK: Phase Shift Keying)の違いを用いることができます。位相は、自分の下に信号が届くタイミングを示すものです。下図だと0と1で位相が半周期分ずれており(つまり、位相が逆)、波の振幅を見てみると0で山のときに1は谷になっています。位相が半周期(180°)違う場合は0°、180°の2状態を表せ、二位相偏移変調(BPSK: Binary Phase Shift Keying)と呼びます。90°おきならば4位相(QPSK: Quadrature PSK)の状態も表せますが、45°おきの8位相くらいが限界のようです。
QAM(Quadrature Amplitude Modulation)はより多くの情報を転送できるようにASK(振幅)とQPSK(4位相)を組み合わせたもので、計8通りの状態を表すことができます。振幅や位相の段階を増やすことで、16QAMや64QAMが実現されています。
5Gの要件
5Gに求められる要件は以下の3つになります。
超高速通信(eMBB)
eMBBはEnhanced mobile broadbandの略。
伝送速度が下りで20Gbps、上りで10Gbpsであること(4Gの10倍)。
超高信頼・低遅延通信(URLLC)
URLLCはUltra reliable and low latency communicationsの略。
通信が始まるまでの待ち時間が1 ms以下であること(4Gでは50 msの遅延が許容)。
自動運転を目指すのであれば、この時間はできる限り小さくしたいです。人の場合、時速60 kmの車に乗っていて危険を感じてからブレーキを踏むまでの時間は通常1.5秒以内で、その間だけでも25 m程度進んでしまうそうです(チューリッヒHP:空走距離)。
多数同時接続(mMTC)
mMTCはMassive Machine Type Communicationsの略。
1 km2あたり100万台の端末が同時に接続できること(4Gの10倍)。
あらゆるモノがインターネットに接続するIoT時代においては、従来の何倍、何十倍もの端末がインターネットに接続するようになります。
ただし現在の技術では上記3つの条件を全て同時に満たすことは難しいです。eMMB・URLLC・mMTCを実現する層をそれぞれネットワーク内部に仮想的に作り、目的に応じて最適なリソースを割り当てています。
5Gを実現する技術
超高速・低遅延通信を実現する技術を紹介します。
高周波帯活用、Massive MIMO→超高速
5Gにおいては、4Gで用いられていた周波数帯に加えて、3.7 GHz帯や4.5 GHz帯(6 GHz以下なのでSub6と呼ばれます)と28GHz帯が用いられるようになります。電波が高周波であるほど単位時間当たりの波の数が増えるので、載せられる情報が増えます。さらに、これらの高周波帯はこれまであまり使われていなかったために電波資源としての余裕があります。
一方で高周波帯活用によるデメリットも存在します。一般に高周波の電磁波ほど散乱されやすく遠くまで届かないのです。夕焼けが赤いのも、青色の光(高周波)が散乱されて赤い光(低周波)のみが届くことに由来します。また、低周波の電波はビルなどが間にあっても回り込んで私たちのもとに届きましたが、高周波の電波はビルの裏側まで回り込むことができません。
さらに、5GのMIMOでは100を超えるような膨大な数のアンテナ素子を使うことで、通信の高速化を実現します。ただし、アンテナ素子が増えるほど電波の干渉も生じやすいというデメリットがあります。
上記2つのデメリットの解決に向けて注目されているのがビームフォーミング技術です。ビームフォーミングでは、アンテナ素子ごとの位相を電気的に調整することによって特定の方向にのみ電波を飛ばすことができます。例えば逆位相の波を足し合わせたときには信号が消えてしまうように、位相制御は信号伝達において重要です。
ビームフォーミングによって特定の方向の信号を強め、さらに干渉も減らすことができます。
エッジコンピューティング→低遅延
端末から基地局を介してインターネットに接続し、インターネット上の仮想サーバ(クラウド)に存在するCPUやメモリなどのリソースを利用する仕組みがクラウドコンピューティングです。この手法だとリソースを効率よく利用できるメリットがある一方で、処理速度が低下してしまうというデメリットもあります。エッジコンピューティングでは基地局などにエッジサーバを導入することで遅延を減らすことができます。
5Gが与えるインパクト
総務省の資料によると、
- 超高速通信→2時間の映画が3秒でダウンロード可能(4Gだと5分)
- 超低遅延→リアルタイムでのロボット制御、遠隔医療実現、自動運転
- 多数同時接続→IoT社会推進
などが期待されています。4Gまでは携帯やスマートフォンのイメージが強かったですが、5Gでは身の回りのあらゆるモノが対象となってきます(IoT)。
まとめ
5Gという言葉は広く知られるようになりましたが、どういう技術かご存じの方はまだそれほど多くはないのではないでしょうか?今回は5Gに至るまでの各通信規格に始まり5Gの技術に至るまでできるだけ要点を絞ってまとめさせていただきました。説明しきれなかった内容も多いので、ネットなどに書かれていない詳しい内容を知りたい方は「インプレス標準教科書シリーズ 5G教科書 ―LTE/ IoTから5Gまで」をお薦めします。少し難しいですが、4Gの仕組みからとても詳細に書かれているので理解が深まると思います。
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