千葉県の記録的豪雨から考える、「浸水想定区域外」というハザードマップの死角

はじめに

ここ1週間ほど、千葉県の大雨に関するニュースが続いています。

今回の豪雨では、水没した車や増水した用水路などで9人が亡くなるなど、県内各地で大きな被害が発生しました(2026年8月16日時点)。

千葉市や船橋市のような東京近郊の都市は、都心へのアクセスが良く、商業施設も充実していることから、近年も人気の高い住宅地です。(私の知り合いもそのあたりに住んでいる方が何名かいます)

しかし、都心へのアクセスが良い千葉県の都市でもこれだけの被害が発生しています。そこで今回は、東京の東側で住む場所を選ぶときに、水害リスクをどのように考えればよいのか、実際のデータを確認してみることにしました。


2026年8月に千葉県を襲った記録的豪雨

2026年8月13日から14日にかけて、千葉県では線状降水帯の発生などにより、記録的な大雨となりました。

県内の広い範囲でレベル5の大雨特別警報・土砂災害特別警報が発表され、避難指示は一時40万人を超えました。

千葉県内では非常に短時間に猛烈な雨が降り、千葉市周辺でも観測史上最大級となる降水量を記録しました。

今回の雨の特徴は、単純に「一日で大量の雨が降った」というだけではありません。

非常に短い時間に、都市部の排水能力を上回るほどの猛烈な雨が集中したことが、大きなポイントです。

このような短時間豪雨では、河川が決壊したり堤防を越えたりする前に、道路や低地、アンダーパスなどに雨水が急激にたまることがあります。

つまり、「河川が氾濫するかどうか」だけでは、実際の危険性を十分に説明できない可能性があります。


被害状況

今回の豪雨では、人的被害だけでなく、住宅、道路、鉄道、電力など、広い範囲で被害が発生しました。

2026年8月16日6時時点での被害は以下(停電は解消済であり、被害状況は8月14日9:10時点)。

項目被害状況
死者9人
行方不明1人
住宅被害損壊73棟、床上浸水597、床下浸水490
停電2.5万軒以上(8/14 9:10時点)
放置車両1,200台超

※被害状況は災害発生直後の報道をもとにしたものであり、今後更新される可能性があります。

道路や鉄道などの交通インフラにも大きな影響が出ました。

千葉県管理河川の村田川で氾濫が発生しています。

京葉線・外房線・東金線などでは運転見合わせが発生し、圏央道や千葉東金道路でも通行止めとなりました。

成田空港では多数の利用者が空港内で一夜を過ごすことになり国道16号や国道464号などでも冠水などによる通行止めが発生しました。

千葉県内では豪雨によって動けなくなった車が1,200台以上にのぼったと報じられています。

今回特に気になったのが、冠水した道路や車の中で多くの方が亡くなっていることです。

佐倉市では水没したタクシーに乗っていた女性が死亡したほか、千葉市でも冠水した道路付近や水没した車内で死亡が確認されたケースが報じられています。市川市や八千代市などでも、冠水した道路で被災した方が亡くなっています。

これは、「住宅そのものが浸水する」という従来の水害イメージとは少し違います。

道路そのものが突然危険な場所になり、移動中の人が被災する。

今回の豪雨では、その危険性が非常に強く表れたのではないでしょうか。


ハザードマップと実際の被災地点比較

ここで、今回私が特に注目したのがハザードマップです。

言葉で説明するより、実際に公式ハザードマップと今回の死者発生地点を重ねてみるのが分かりやすいと思います。

都心付近の千葉浸水想定区域と26年8月豪雨死者数
千葉浸水想定区域と26年8月豪雨死者数

※国土地理院・国土交通省の公開データをもとに筆者が作成したものです。死者発生地点は報道から把握した市区町村単位の概略位置であり、正確な住所・地番を示すものではありません。

図を見ると、市川市のように河川沿いの浸水想定区域に近い場所がある一方で、千葉市若葉区、佐倉市、八千代市、柏市など、河川洪水の浸水想定区域として色がついていない場所でも死者が発生していることが分かります。

ここで重要なのは、

「河川洪水の浸水想定区域に入っていない」ことと、「豪雨時に浸水しない」ことは同じではない

ということです。


「浸水想定区域外」でも浸水する理由

今回のポイントになるのが、内水氾濫です。

洪水ハザードマップで一般的に表示されている「洪水浸水想定区域」は、河川が増水して氾濫した場合に、どこまで水が広がるかをシミュレーションしたものです。

一方、内水氾濫は、短時間に大量の雨が降ることで、下水道や側溝、水路などの排水能力を上回り、雨水を排出しきれなくなって発生します。

つまり、

河川が氾濫していなくても、道路や市街地が浸水することがあります。


実際、今回の被害の半分以上が「リスク区域の外」だった

この点を非常に分かりやすく示しているデータがあります。

ウェザーニュースが今回の豪雨について、9,938件のウェザーリポートを分析しました。

その結果、被害を示す報告のうち、

  • 低位地帯または浸水想定区域内:44.3%
  • 低位地帯または浸水想定区域外:55.7%

となりました。

つまり、約55.7%の被害報告が、従来から水害リスクが高いと考えられていた場所の外側から寄せられていたということです。

すべての被害を網羅した統計ではありませんが、

「ハザードマップ上のリスク区域だけを見ていては、実際の被害分布を十分に説明できなかった」

ことを示す興味深いデータだと思います。


千葉市や船橋市にも「内水」のハザードマップはある

ここで誤解してはいけないのは、

「自治体が内水氾濫を想定していなかった」

という話ではないことです。

実際には、千葉市も船橋市も、内水に関する浸水想定を公表しています。

千葉市には千葉市地震・風水害ハザードマップがあり、洪水だけでなく内水についても確認できます。

さらに千葉市では、2026年3月に水防法に基づく「雨水出水浸水想定区域」の指定も行われています。ここでは想定最大規模降雨によって内水氾濫が発生した場合の浸水状況がシミュレーションされています。

ただし、千葉市は同時に、

浸水想定区域に指定されていない区域においても、浸水が発生する場合や、想定される水深および浸水継続時間が実際と異なる場合

があると注意喚起しています。

さらに、2026年8月15日時点では、この新しい雨水出水浸水想定区域について、千葉市のWEB版ハザードマップにはまだ反映されていないとされています。最新情報を確認する場合は、指定区域図そのものを見る必要があります。

問題は「ハザードマップが存在しない」ということではなく、

洪水、内水、高潮、土砂災害など、複数のハザード情報を自分で確認しなければならない

という点にあります。

不動産を探すとき、物件サイトに表示される「洪水ハザードマップ」だけを見て判断してしまうと、別のリスクを見落とす可能性があります。


東京に近い人気都市、千葉市・船橋市は本当に「危険」なのか

ここまでの話を読むと、

「では、千葉市や船橋市は危険な街なのか?」

と思うかもしれません。

私は、そこまで単純な話ではないと思っています。

船橋市はJR総武線快速などを利用して都心へアクセスしやすく、ららぽーとやイオンなど大型商業施設も充実しています。

人口約65万人を抱える大都市であり、東京近郊のベッドタウンとして根強い人気があります。

千葉市も政令指定都市であり、東京都心へのアクセスと都市機能の充実を兼ね備えた街です。

こうした利便性の高さは、住む場所として大きな魅力です。

一方で、今回の豪雨では、死者9人のうち3人が千葉市で発生しました。

この事実から考えたいのは、

「人気のある街だから安全」とは限らない

ということです。

これは千葉市や船橋市だけの問題ではありません。

東京を含む大都市では、道路や建物など人工的に覆われた土地が多く、短時間に大量の雨が降った場合、雨水を地中に浸透させたり、排水したりすることが難しくなる場合があります。

都市化は利便性を高める一方で、内水氾濫のリスクを高める要因の一つにもなります。

もちろん、すべての都市部が同じように危険というわけではありません。

標高、地形、河川との位置関係、下水道の整備状況、雨水貯留施設の有無、道路の勾配などによって、リスクは大きく異なります。

だからこそ、

「千葉県は危険」「東京は安全」というような都道府県単位の判断ではなく、実際に住む場所の地形や排水条件まで見る必要がある

のだと思います。


住まいを選ぶときに確認したい5つのポイント

今回の豪雨を調べてみて、住む場所を検討するときには、少なくとも次の点を確認した方がよいと感じました。

1.洪水だけでなく「内水」のハザードマップも確認する

自治体のハザードマップを見るとき、

  • 河川洪水
  • 内水(雨水出水)
  • 高潮
  • 土砂災害

などが別々に用意されていることがあります。

「洪水ハザードマップを見たから大丈夫」ではなく、「内水も確認したか?」までチェックすることが重要です。


2.土地の成り立ちを確認する

国土地理院のベクトルタイル「地形分類」(治水地形分類図・土地条件図等を統合したもの)で、どのような土地か確認できます(地図上をクリックすると説明が出ます)。

同じ市内、同じ駅から徒歩10分圏内でも、地形が少し違うだけで水のたまりやすさが変わる場合があります。

ハザードマップだけでなく、「そもそもこの土地はどんな場所なのか」を見ることが重要です。


3.過去の浸水履歴を確認する

過去に実際に浸水したことがあるかどうかも重要です。

自治体によっては、

  • 浸水実績図
  • 浸水履歴
  • 過去の水害記録

などを公開しています。

ハザードマップは基本的に「想定」に基づくものですが、過去の浸水履歴は「実際にそこで何が起きたか」を知る手掛かりになります。

また、古い地形図や住宅地図などを調べると、その地域の過去の土地利用や水路の位置などが分かることもあります。


4.アンダーパスや地下施設の有無を確認する

今回の豪雨を見て、これも非常に重要だと感じました。

アンダーパスは道路が周囲より低くなっているため、短時間に大量の雨が降ると水が集中する可能性があります。

また、

  • 地下駐車場
  • 地下鉄・地下通路
  • 地下商業施設
  • 半地下の住宅
  • 地下へのスロープ

なども、大雨時には注意が必要です。

住居そのものが浸水しなくても、周辺道路が冠水すると車で出入りできなくなる可能性があります。

そのため、

「家が浸水するか」だけではなく、「家までの道路が浸水しないか」

という視点も重要です。


5.短時間豪雨のときは車で移動しない

今回の被害を見て、最後に最も強く感じたのがこれです。

大雨のとき、

「まだ大丈夫だろう」

と思って車で移動すると、数十分後には道路の状況がまったく変わってしまう可能性があります。

特に、

  • アンダーパス
  • 河川沿いの道路
  • 周囲より低い道路
  • 地下駐車場への出入口
  • 冠水している道路

には近づかない方が安全です。

今回の豪雨では、車内に閉じ込められて亡くなった方も複数確認されています。

道路が冠水し始めてから「どこまで行けるか」を判断するのではなく、危険になる前に移動をやめることが重要です。


「ハザードマップの外側」は、本当に安全なのか

ハザードマップは非常に重要な防災情報です。

しかし、

ハザードマップに色がついていない=災害が起きない場所

という意味ではありません。

そもそもハザードマップは、一定の条件を設定したシミュレーションです。

例えば千葉市も、想定を超える降雨などが発生した場合には、浸水想定区域に指定されていない場所でも浸水する可能性があると明記しています。

これはハザードマップが役に立たないという話ではありません。

むしろ逆です。

ハザードマップは、「どのような条件なら、どこが危険になるのか」を知るための非常に重要な情報です。

ただし、それを「安全区域の証明」として使ってはいけない。

今回の豪雨は、そのことを改めて示したのではないでしょうか。


まとめ

「千葉県は危険なのか?」

今回のデータを調べた私なりの結論は、

「千葉県だから危険」という単純な話ではない

というものです。

むしろ今回見えてきたのは、

「便利で人気の高い都市部ほど、河川氾濫だけを見たハザードマップでは、短時間豪雨による浸水リスクを見落とす可能性がある」

ということです。

これは「ハザードマップが間違っていた」という意味ではありません。

河川洪水と内水氾濫はそもそも別の現象ですし、ハザードマップにも想定条件があります。

だからこそ、住む場所を選ぶときには、

「洪水ハザードマップに色がついているか」だけではなく、内水、地形、過去の浸水履歴、道路の形状まで含めて見る必要がある

のだと思います。

駅から徒歩何分か。

スーパーが近いか。

東京まで何分で行けるか。

住宅価格はいくらか。

こうした情報はもちろん大切です。

しかし、そこにもう一つ、

「大雨が降ったとき、この場所はどうなるのか?」

という視点を加えてみる。

それだけでも、住まい選びの見方はかなり変わるはずです。

地味な作業ではありますが、数千万円、あるいはそれ以上の金額を払って住む場所を選ぶのであれば、こうした確認に少し時間をかける価値は十分にあるのではないでしょうか。

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